未来漫研 Vol.1 小池一夫 キャラクターマンが力説!これから“来る”タブレットとモーションコミックの可能性

未来漫研Vol.1 小池一夫

凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第1弾となる今回は、「子連れ狼」など多くの劇画やマンガの原作を手がけ、「キャラクター原論」を提唱する小池一夫にインタビューを実施した。

自身が開講した「劇画村塾」にて高橋留美子、原哲夫、板垣恵介ら多数のマンガ家の育成に力を注いできた小池。ソーシャルメディアにも造詣が深い彼に、マンガ界における問題点やデジタルコミックのこれからについて語ってもらった。

取材 / 安井遼太郎 文・撮影 / 熊瀬哲子

僕の中には4世代くらいの感覚が入ってる

──小池先生はソーシャルメディアに対して大きな関心をお持ちかと思います。Twitterでもほぼ毎日発言されていらっしゃいますが、フォロワー数は17万人にも及ぶほどで、多くの方が小池先生の発言に注目しているのかと。

他愛のないことだったり、ジジイの愚痴みたいなものを聞いていただいてますね(笑)。Twitterで「これはこうするンだよ」と何か発言をすると、それに対して「No」を突きつけてくる人もいれば、「感動した」「その通りにします」と言ってくる人もいる。プロフィール欄には書いてなくても、だんだんと「この人は20代だな」「この人は60代だな」ってわかるようになってきました。「この世代の人はこういう考え方をするんだ」と。そうやっていろんな世代の人から意見をいただけることが僕自身にもプラスになってます。参考になるというか、自然とその中に浸かっているから、自分もその世代にいるみたいな感覚になる。だから今、僕の中には4世代くらいの感覚が入っちゃってる(笑)。

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小池一夫

──そもそもソーシャルの世界を意識されたのはいつ頃からなんですか?

1999年に、大阪芸術大学の理事長と事務局長が私のところへスカウトに来られたんです。「大学でマンガについて教えてほしい」と。その頃から僕はキャラクター論を研究していたので、とりあえず1年間行ってみることにしまして。そうしたらその頃っていうのはインターネットが盛んになって来た時期ですから、生徒からネット文化に関する質問も出てくるんですよね。「初音ミクをどう思いますか?」とか。「あ、こりゃいかん」「やっぱり知らなきゃいけないんだ」と思ったのが始まりです。もう1つは、自分は来年には満80歳になるんですけど、SNSの世界を覚えて、若い人の声をもらわないと世代感がわからないなと思った。それでTwitterを始めました。

昔のマンガもモーションコミックによって蘇る

──小池先生は今も大学や専門学校、高校をまわって、マンガをはじめとするコンテンツのことを教えにいかれているとか。生徒たちにはどういった話をされてるんですか?

今は「タブレットの時代が来る」という話をしています。タブレットで読むマンガと、モーションコミックの時代が来るんだと。

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小池一夫

──モーションコミックというのは、マンガに音声や動きなどの演出を加えた動画コンテンツのことですね。

僕も自身が原作を務めた「子連れ狼」を5分くらいのモーションコミックにしたんですけど、アニメより安く作れますし、何より面白いですよ。「子連れ狼」なんて40年前の作品ですけど、モーションコミックで見ると全然古い感じがしない。現代に蘇るんですよ。有名なマンガでも、今となっては埃をかぶって眠っているような作品がたくさんある。だけどモーションコミックにすることによって、若い人たちに読んでもらえる作品がゾロゾロと出てくるかもしれない。

──若者が「古い作品だから」といって敬遠していたようなマンガでも、新鮮な気持ちで見ることができるかもしれないですね。

あとはマンガって音がないから、吹き出しを作らなくちゃいけない。コマの中に吹き出しを作ると、そのぶん絵が死ぬわけですよね。

──コマを描いたぶんだけ、絵を描ける面積も減ってしまう。

モーションコミックだと音声を出せるので、吹き出しが必要なくなる。そうしたらコマの中の構図も自由になるし、擬音も描かなくて済みます。例えば恐怖を感じさせるようなシーンも、音から恐怖心を与えることができますし。可能性が広がりますよね。紙媒体だとそういった表現はできないけど、タブレットだとできる。あとは、「ReLIFE」というマンガをご存知ですか。

──無料マンガサービスのcomicoで連載されている作品ですね。

例えばその「ReLIFE」の冒頭で、主人公の海崎が面接官から「どうして初めて入った会社を3カ月で辞めたんですか」って、嫌な質問をされるシーンがあるでしょ。そこで海崎が緊張して「やっぱりそこ来るか」と思う。その瞬間、読者も自分の指を止めてハッとするわけです。つまり自分の感情の動きと指先が一緒になって、マンガを読んでいける。雑誌だったら開いたときにその見開きで起きてることがすべて見えてしまうけど。

──なるほど。

僕はマンガに音と動きが入る動画コンテンツのことだけではなくて、そういったマンガのこともモーションコミックと呼べるんじゃないかと思っています。指先によるストローク、この動きもモーションなんだと。

──それらすべてを含めたモーションコミックというコンテンツに、小池先生は可能性を感じていらっしゃる。

はい。例えばアクションシーンを表現するとき、雑誌だと1ページの中にあるいくつかのコマの中で戦ってる姿を描くことになるから、それぞれを大きく見せられない。だけどモーションコミックだと、1コマずつ画面いっぱいにアクションを見せることができる。それもタブレットで見ると結構な大きさになりますよね。そこに音や動き、音楽が入る。そうすると迫力のあるアクションシーンが体験できる。そういった今までのマンガにはない可能性を秘めてるから、タブレットの時代がもうすぐ来ると言っているんです。

どの世界でも“キャラクター”が消えるとダメになる

──小池先生は「キャラクター原論」を提唱されていらっしゃいますが、その観点から今のマンガ界に対して、何か思うところはあるのでしょうか。

“強い”キャラクターが登場する作品がもっと出てくればいいなと思ってるんです。強いキャラクターっていうのは、例えばゲーム界でいうピカチュウみたいな存在。マンガでいったら「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」とか。それくらい強いキャラクターが最近はなかなか出てこないんですよね。今でも「ONE PIECE」だったり「進撃の巨人」だったり大ヒットを飛ばしている作品はあるけど、追いかけてくる次の波が少ない。昔は「うる星やつら」のラムちゃんとか「北斗の拳」のケンシロウとか、まあ次々に出てきましたけどね。そういう新しくて大きなキャラクターや、それを生み出せる新人がどんどん続いて出てきてほしい。

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小池一夫

──確かに誰もが知っているような国民的なキャラクターというのは、なかなか出てこない印象があります。

大急ぎで、と言ってもできないかもしれないけど、キャラクターを育てていく必要がある。僕は「キャラクター原論」についてずっと言ってきてますけど、大企業はあまり重要視してないんでしょう。マンガの今一番の課題は「どうやってビッグなキャラクターをつくり上げるか」ということ。マンガ界に限らずどの世界でもそうですけど、キャラクターが消えるとダメになるんです。スケート界から羽生結弦が、テニス界から錦織圭がいなくなったら、その世界自体が落ち込んで寂しくなっちゃうでしょ。

──多くの人を惹きつけるような存在がいなくなってしまうと、そのコンテンツ自体への興味が薄らいでしまうかもしれませんね。そういったキャラクターの存在が、それぞれのコンテンツを支えていると。

キャラクターっていうのはどんなメディアにでも入っていけるんですよ。だからマスだソーシャルだ言ってないで、1つのキャラクターを雑誌で、テレビで、映画で、配信で。複数のメディアが協力して、強大なキャラクターを作っていけばいいんです。

キャラクターは生きるために必要なことを教えてくれる

──マスとソーシャル、それぞれの強みを活かしてキャラクターを育てていく。

そうすると1つの大きなキャラクターが育つじゃないですか。だから雑誌の中に1つヒットを、なんて考えてるうちはダメですよ。もはや雑誌だけでは大きなキャラクターを作れるはずがない。かといってネットの世界だけでも育たない。だって日本の人口の半分以上が老人なんですよ。そういう人たちはネットを見ないし。

───どこかのメディアだけで売りだそうとせず、それぞれが協力していく必要がある。

そう。キャラクターっていうのは、人間が感じる喜びとか怒りとか悲しみとか、さまざまな感情を与えることができるし、教えてくれるんですよ。生きるために必要なことを。それほど大事なコンテンツを疎かにしてどうするんだと、僕は問いかけたいですね。

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小池一夫

──ありがとうございます。最後に若いクリエイターに対してメッセージをいただけますか。

1つ強いキャラクターを作れば、ソーシャルとかマスとか区別する必要もなく、両方に入っていくことができます。それにマンガを描くことにも原作を書くことにも無駄にはならない。どんな世界にでも入っていける。こんな便利なものはないでしょ。だから例えば大学生だったら、大学を卒業するまでにすごいキャラクターを作ってみなさいと言ってあげたい。絶対将来役に立つから。

──今だったらTwitterに画像をアップして、小池先生に見てもらうってことも……。

できちゃいますからね。だから作品ができたら見てあげますよ。添削してもらうということも大切ですから。そこから出版社への持ち込みだったり、Webにアップロードしていく。そうやって諦めないで続けてほしいですね。

プロフィール

小池一夫(コイケカズオ)

作家。マンガ原作者。1936年秋田県生まれ。1970年「子連れ狼」(画:小島剛夕)の執筆以来、小説、マンガ原作、映画・TV・舞台等の脚本、作詞など幅広い創作活動を行う。代表作に「首斬り朝」「修羅雪姫」「クライング・フリーマン」など多数。1977年よりマンガ作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾、多くのクリエイターをデビューさせる。1999年には大阪芸術大学教授、2005年にはキャラクター造形学科の初代学科長に就任。退任後の現在も後進の指導にあたっている。2004年には米国アイズナー賞の「マンガ家の殿堂」(The Will EisnerAward Hall of Fame)入りを果たす。2010年よりTwitterを開始。2013年、新人育成のためにマンガ誌ストレンジャーソレント(小池書院)を創刊、編集長を務める。2016年1月、現代版劇画村塾「小池一夫キャラクターマン講座」第9期を開講。