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【PinとくるWebマンガレビュー】美しさと滑稽さの交じり合う、まさにSMのようなマンガ「アフター5の女王たち」

特集 レビュー PinとくるWebマンガレビュー

マンガを読みたくなるきっかけにはいろいろあると思うが、個人的には「職業マンガ」に弱い。そこで扱われているのが普段接することのない職業ならなおさら気になってしまう。そういう意味ではこの「アフター5の女王たち」には食いつかざるを得ない。何せ作品説明が「見習い女王様まどかが、先輩4人に『調教』されながらSMの高みを目指す!」だ。知識欲だけでなく、下世話な興味もそそられまくる。

いわゆる「女王様」の世界を描いたこのマンガの、メインとなる舞台はSMバー。性風俗店ではなく、「ムチで叩く」「縄で縛る」程度の軽いプレイをするお客さんがいつつ、それを見ながらお酒を飲んだりするお店だ。「SM」というだけで引いてしまう人はいるのかもしれない。しかし舞台設定のせいもあって作中に直接的なエロや過激な表現はなく、わりと気軽に読めるのではないだろうか。

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「アフター5の女王たち」より。

新人女王様である主人公・まどかが先輩からSMについていろいろ教えてもらうのが、この作品序盤の大きな流れ。読者としても楽しみながら自然とSMについて学べる貴重な機会である。

例えば「奴隷を縛る麻縄を強くて滑らかにするにはなんだかんだで一週間かかる」というトリビアを教えてもらう場面では、先輩の「つくづく思うけど 女王様って奴隷の奴隷だよね…」という自虐でオチがついている。「女王は奴隷の奴隷」というトンチの効いたフレーズは笑えるだけでなく、「意外と真理かも……」と考えさせられもした。

そして「アフター5の女王たち」のタイトル通り、まどかには「昼間はOL」という顔も。「職業マンガとしてSM知識が学べること」がこの作品の横軸とするなら、縦軸は「正体を隠した二重生活モノとしてのストーリー」ということになるだろうか。「会社一のイケメンがお店に来てしまい正体がバレそうに……」とか、「会社の新入りが実は有名な緊縛師で、彼だけには正体がバレて弱みを握られ……」とか、「カバンの中のムチをアパートの大家さんに見られて誤解され……」等のイベントが次々に発生するので目が離せない。

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「アフター5の女王たち」より。

そのイベントのうち、お店に来てしまった会社のイケメン・村上との関係性はストーリーのメインになっていく。なかでも、村上が初めてまどかと主従関係を結んだ場面が美しいので紹介したい。村上さんに指名されたまどかが「自分はまだ失敗ばかりだから他の人を指名したほうが」と拒否したところを、村上さんは「どうせ失敗するのなら僕の体で失敗してほしいです!駄目ですか?」と返す。この特殊な繋がりは普通の恋愛マンガではなかなか描けないところだ。安易に「SM=変態的な行為」と思いこんでる人はぜひこれを読んで、奴隷と女王様の美しい関係について理解を深めてほしい。

そしてその美しい光景を見て「小僧め、やりおるわ!」と偉そうにつぶやくのがバーの常連である中年男性で、しかもほぼ全裸のうえに縄で吊るされてエビ反り状態というのも凄い。このたった1ページ(4コマ)に収められた流れは、「SMラブコメ」という特異なジャンルならではの名場面だ。そもそもSMというジャンル自体が「ときには純愛でありながら、一歩間違えればギャグに見える」というものだが、このシーンもまさに美しさと滑稽さが入り混じっている。

珍しい職業を描いたマンガは、単に「知らない職業の実態を知れておもしろかった」で終わることも多いが、この作品はそれ以上に「SMって素晴らしいものかも」という新しい世界を広げてくれた。「SMマンガってことはエッチなシーンあるかな?」ぐらいの軽い気持ちで読んで申し訳ありませんでした、と謝りたくなる名作だ。

(文/松本真一)