【PinとくるWebマンガレビュー】 君は佐々木さんを知っているか?阿部共実が放つ最新作「死に日々」のヒロインについて

「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々」という当てつけのような長いタイトルの本作。「ちーちゃんはちょっと足りない」で「このマンガがすごい!2015」オンナ編1位に輝いた阿部共実が、2013年からWebマンガサイトのChampionタップ!で不定期に発表しているオムニバス作品である。週刊少年チャンピオン(秋田書店)でのデビュー連載「空が灰色だから」と同じく、少年少女の少し上手くいかない日常が題材だ。ネットを中心に話題を呼び、単行本の2巻にも収められている「8304」をはじめ、心に響く読み応えのあるエピソードが多いのだが、筆者はここで、比較的ライトなほうにスポットライトを当ててみたい。

基本的に1つひとつのエピソードが独立している「死に日々」の中で、唯一連作として描かれている「アルティメット佐々木27」シリーズは、独身女性・佐々木さんと、そのバイト先の後輩である坂本くんとの会話劇だ。佐々木さんはバイト帰り、一緒になった坂本くんに、「モテない」「痩せない」といった自分の悩みを話す。毛深くて少しお肉が気になるムッツリ気味のアラサー処女であるところの佐々木さんが、しょうもないダジャレや昔のテレビネタを交えながら、赤裸々な悩みをまくし立てるそのさまは、語呂の良さも相まって非常に気持ちがいい。特に初回で放たれる「佐々木はボーボーになるよ 毛という毛を伸ばしっぱなしにするよ 個性を伸ばすよ毛だけにぃ!」は、筆者も事あるごとにつぶやいてしまう名言だ。

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第9話「アルティメット佐々木27」より。決意から間もないからか、腋はまだツルツルなところにも注目したい。

また突っ込み役である坂本くんは、彼女におおむね好意を寄せている、ごく普通の男子。阿部は初期連作「ドラゴンスワロウ」でも、天才肌で変人な女子高生と、彼女に恋い焦がれる後輩女子による百合漫才を描いていた。翻って「アルティメット佐々木」シリーズは、(おそらくは大多数の読者にとって)より感情移入しやすい、平凡な男子の視点から綴られている。佐々木さんから矢継ぎ早に投げかけられるあけすけな質問に、読者も顔を赤らめてドギマギできる。今までの阿部作品とは、また違った魅力が楽しめるといえよう。

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第12話「アルティメット佐々木272」より。照れのあまり意味不明な言葉を叫んでしまう坂本くん。

とりあえず「アルティメット佐々木」シリーズに限って紹介したが、「死に日々」はオムニバスなので、ほかにもさまざまな物語が登場する。当代きっての才能の持ち主が、とんでもない物語をじっくりと産み続けている場所が、Web上にはあるのだ。1話たりとも見逃さないことをお薦めする。

(文/安井遼太郎)