未来漫研 Vol.4 トーチweb編集長・関谷武裕インタビュー(前編)

未来漫研 Vol.4 トーチweb編集長 関谷武裕 ブロマンス的な編集部で“実験”と“信頼”を重ねる トーチweb編集長の今考えていること(前編)

凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第4弾となる今回は、リイド社発のWebマガジン・トーチwebの編集長を務める関谷武裕氏へのインタビューをお届けする。「未だ見ぬマンガ表現」をテーマに掲げ、2014年の8月に創刊したトーチweb。前編では創刊から1年8カ月経った今、感じる現状について語ってもらった。また“イケてるWebマガジン”作りのためにどのようなコミュニケーションを取っているのか、編集部内の様子も聞いていく。

取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 安井遼太郎

書店に棚がない状態からのスタート

──トーチwebの創刊から1年と8カ月が経ち、続々と連載作品の単行本も刊行されています。現在の状況や、反響はいかがでしょうか。

ちょうど今、2014年8月から2016年3月までの損益計算書を作成したところです。3月までに出した単行本は8冊。当初は収支の赤字額をサイトに掲載していて、周囲からかなり心配されていた時期もありましたが(笑)、本当に関係者各位のおかげで、創刊前に想定した数字を上回る結果を出せていると思います。今もサイトに収益額を載せていたら、皆さんを驚かすことができていたんじゃないかなと。

──軌道に乗っているんですね。

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ドリヤス工場「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」

2000年代になって以降、リイド社は時代劇コミックを主に作ってきたので、トーチwebもいわゆる青年コミック誌を作った経験のない編集者ばかりでした。その上書店にトーチwebで掲載しているようなマンガを置く棚を、リイド社として持っていないという状態だったので、ゼロからマンガの作り方・売り方を考えて実行してきました。最初の頃は部数が想定を下回ることもあったんですが、今は重版がかかる単行本も出てきて徐々に発行部数も増え、手応えを感じてます。ドリヤス工場さんの「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」は6版出来が決まり、10万部の大台が見えてきました。電子書籍も売れてます。

──すごいですね! その反響の大きさは想定されていたものだったのでしょうか? WebマガジンはSNSと密接な関係にあるので、紙の媒体よりも読者の声がすぐ届いて、反応を見やすいのではないかと思うのですが。

「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」のここまでの売れ方は想定してなかったですね。トーチweb関連への反応はSNSなどを通じて見ていますが、同時に日販のオープンネットワークの「WIN」を利用し、書籍の売り上げなどマーケット情報も注視しています。トーチ創刊当時は「いくらWebで読まれていようが、紙の単行本は売れない」と言われていたんですけど、最近少しずつWebの反響と紙の売り上げはつながってきているように感じます。書店員さんからもWeb連載時の反応を、単行本化する際に下ろしてほしいという要望が増えましたし。

紙では人気がなかった作品が、Webでは一番読まれる作品に

──「ネットでタダで読めるマンガ」で終わるのではなく、きちんと商品としてお金を払う読者が増えてきているのでしょうか。

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関谷武裕

単純に環境が整ってWeb発のコミックのクオリティが上がってきてるということ、売る側の販売戦略ノウハウが溜まってきていること、買う側が面白いWebマンガを見つけやすくなっていることが販売につながっているんじゃないかと僕は思います。トーチの作品は自社サイト以外に、ニコニコ静画やpixiv、cakesなどの他媒体に配信して接触機会を増やしているんですが、そのことも単行本や電子書籍の売り上げにつながっている実感があります。当たり前なんですが、同じ作品でもニコニコ静画とTwitterとでは全然反応が違うんですよ。

──Twitterに比べるとニコニコ静画は若い層の人たちが利用している印象があります。

ニコニコ静画は若い男性読者が多くて、pixivは女性ユーザー、cakesは30〜40代の男性が多い。属性も媒体ごとに違うし、読者に刺さる作品も変わってきます。極端な例として、トーチwebに掲載していた田中圭一さんの「Gのサムライ」は、もともとコミック乱ツインズという時代劇のマンガ雑誌で連載していた作品で、単行本化ができないまま連載が終了してしまったんです。

──単行本化できなかったのはどうして?

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トーチWeb発の単行本。

50〜70代がメイン読者のコミック乱ツインズで連載していた頃は、紙の単行本としてどう売り出すべきなのかというビジョンを、編集も営業も描けていなかったんじゃないでしょうか。ところがコミック乱ツインズからトーチwebに連載の場を移してみたら、リイド社のサーバーが何度も落ちるほどの反響で……。

──確かに童貞を題材にしたギャグマンガというのは、なんだかネットの住人たちと相性がよさそうな気がします。

ツインズでは人気を集められなかったんですが、「Gのサムライ」はもともと面白い作品だったんです。ただ、掲載先の属性と親和性が高くなかった。トーチwebに移籍してからは、担当編集者のWeb戦略が見事にハマってましたね。そこにまったく想定していなかった腐女子を自認する方々に発見されたことでバズが起きて、「Gのサムライ」対策でサーバーを増強したりなんてこともあったり。そして単行本化が決まりました。掲載先が変わると、読まれ方や反響が一変することがあるんだな、と。

──それだけ大きな反響の差が出るんですね。腐女子の方は「Gのサムライ」をどう読まれているんでしょう……。

どうなんですかね……。僕は腐女子ではないので詳しくはわからないんですが(笑)。トーチにもBLやブロマンス系のマンガを載せているので、そういった作品を入り口に、腐女子の方が「Gのサムライ」の侍と貴族を“カップル”として誤読してくれたのかもしれません。ただそれも「Gのサムライ」が、ギャグマンガとして面白かったから起こった現象なんだと感じています。面白くて、なおかつ誤読させてくれる余地のある作品って最高ですよね。自分たちが考えていなかった読み方をされていくのはうれしい驚きでした。おかげさまで4月15日に発売した単行本は多くの書店さんからたくさんの注文をいただき、初刷部数も伸びて実売の初速も予想以上に出ています。重版出来のニュースを皆さんに届けられるかも……というような現実に変わっています。

ブロマンス的に仲のいい編集部

──ちなみに今トーチweb編集部は何人でやられているんでしょうか?

トーチweb編集部の専任は、編集長の僕と編集者の山田の2人。現副編集長の中川はコミック乱と兼任で、アルバイトの編集スタッフも1人います。前副編集長の中村も兼任でやってくれていたんですが、この春コミック乱ツインズの編集長に抜擢された関係で、今はそちらに専念していて会社の組織図上では抜けています。

──かなりの少人数でやられているんですね。

そうですね……日々の更新作業に加えて単行本作業が重なったときは特に大変です。アルバイトの編集スタッフが優秀なのと、編集部の仲がいいということでなんとか回っている状況。人を増やしてほしい……とは会社にお願いしています。

──編集部全体として、意識している一貫した思いみたいなものはお持ちなんですか。

何の文脈もない中でトーチwebというメディアをやらせてくれた社長をはじめ、リイド社に関わってくれているマンガ家さんやデザイナー、トーチのコミックスを売ってくれている書店さんなど、関係者の期待に応えたいという思いがあります。ありきたりなことですが(笑)。できるだけ関わってくれた人たちと一緒に年老いていきたいと思ってますからね。大きな商売じゃなくてもいい、小さくても細く長く続いてく商いをしたい。それって“イケてる”と思うし、そういったメディアを作りたい。じゃあ“イケてる”ってなんなの?ってところを「“実験”と“信頼”の両輪でいこう」「“期待”と“信頼”の経済圏だよね」とか、「10年後も評価される作品を発信しよう」とか、いろんな角度から言い換えて共有しています。チームの目的や思想はかなり合致してるんじゃないかなと。

──少人数の編集部だからこそ、より深くできることかもしれません。

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関谷武裕

そうですね。トーチweb編集部は社内でもほかの部署に比べてミーティングの回数も多いですし、週末に遊んだりもする仲なので。

──仲がいいですね(笑)。

(笑)。それこそうちの編集部自体がボーイズラブ的というか、ブロマンス的なんですよ。編集部員で休日に仕事がてら集まって合間にボードゲームしたり、旅行に行ったりイベントに遊びに行ったりしています。COMITIAなどの出張編集部として出かけるときは打ち合わせた訳でもないのに、全員白のYシャツを着ていたりして(笑)。

──それだけ仲がよくて密にコミュニケーションも取れていると、アイデアも生まれやすそうですね。

とりとめの無い話の中からアイデアが出てくることもありますしね。それに編集部員はみんな仕事に夢中なので、何を話していても仕事の話に帰結したりします。ボードゲームとかも、やっているうちに思考の癖や、得手不得手も見えてくる。本や映画の感想など雑談を通じて確認し合った価値観のおかげで、コミュニケーションにもズレがないんです。だからいつも“イケてる企画”が上がってきて非常に効率的です。突然変な企画が上がってくるとか、そういう無駄な時間がないように感じます。

──編集部内で意識のすり合わせがちゃんとできている。

はい。編集部としてそれが一番大事にしていることかもしれないですね。

プロフィール

関谷武裕(セキヤタケヒロ)

1982年生まれ、静岡県出身。「トーチweb」創刊編集長。2006年10月リイド社入社。「コミック乱ツインズ」編集部、「戦国武将列伝」編集部副編集長を経て、2014年8月より現職。好きな麺は、汁なし担々麺。痺れや辛みのあるモノが好きです。