未来漫研 Vol.4 トーチweb編集長・関谷武裕インタビュー(後編)

未来漫研 Vol.4 トーチweb編集長 関谷武裕 ブロマンス的な編集部で“実験”と“信頼”を重ねる トーチweb編集長の今考えていること(後編)

凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第4弾となる今回は、リイド社発のWebマガジン・トーチwebの編集長を務める関谷武裕氏にインタビューを行った。「未だ見ぬマンガ表現」をテーマに掲げ、2014年の8月に創刊したトーチweb。後編ではWebマンガのこれからや、トーチの展望について関谷氏に考えを聞いた。

取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 安井遼太郎

「サブカルっぽい」と言われるのが最初は少し嫌だった

──先ほど編集部員に「“実験”と“信頼”の両輪でいこう」とお話されているとおっしゃっていましたが、こちらについても詳しく教えていただけますか?

トーチは王道ではない実験的な作品が多い傾向にあると思うんですけど、それはトーチがWebマンガ媒体としては後発であること、リイド社がメジャーな少年誌・青年誌の文脈を持っていなかったということが関係しています。他社と同じことをやろうとしても追いつかないので、トーチはほかでは読めない実験的な“未だ見ぬ表現”を発信していこうと決めました。それでいて信頼を得ていかないとビジネスにならない。じゃあどうしようか?というところで、トーチはWebマガジンの辺境にある観光地として、実験的な企画をやり続けることが“ビジターの期待を裏切らない=信頼”につながっていくんだと考えました。「ちょっと変な観光地だけど楽しいよね」っていう声や期待に応えたい。それはトーチに関わる作家さん、書店さんに対してもそうですし、もちろん読者に対しても。期待と信頼の経済、期待と信頼のコミュニケーションを取っていきたいんです。

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関谷武裕

──「応えたい」と思えるくらい、読者からの期待を実感しているということでもあると思います。実験的な作品以外に、具体的に求められていると感じるものはありますか。

それは「面白い体験をしたい」ということに尽きると思います。「面白い」ことを見つけて、発信するのが僕らの仕事なので、トーチじゃないとできないようなことを常にやっていきたいですね。まだまだ実現できてないアイデアがあるので期待してほしいです。あ、もちろん前提として「売れている」「ビジネスとして成り立っている」ということがあった上での話ですよ。話は少し変わりますが、トーチって立ち上げのときに、「サブカルっぽい」「ガロっぽい」と言われることが多くて。ちょっと嫌だなと思っていた時期もあったんです。

──「嫌」と言いますと。

「サブカル」という言葉って、使い方次第では「サブカル(笑)」みたいな、ちょっと侮蔑的なニュアンスも含まれるときがあると思っていて、安直にレッテルを貼られることへの恐怖と違和感があったんです。トーチで発信しているマンガを、僕らは「サブカル」と言ったことがない。でも今あえてこの言葉を使いますが、僕は「サブカル」に救われて育ったし、ガロに影響を受けているのも事実。「ガロっぽい」って言われることも光栄です。サブカルチャーを紹介する媒体が減っている今、トーチはサブカルであることを自認してもいいんじゃないかって思い直しています。「誰もやらないんだったら、じゃあリイド社は時代劇とサブカルチャーでいこうよ」なんてことを言い出すかも(笑)。

──確かに「メジャーなマンガ」「サブカルっぽいマンガ」と作品が分類されることがありますね。

例えばトーチは、週刊少年ジャンプを読んでいる層に向けてマンガを作っていない。もちろん「ONE PIECE」くらい売れる作品を作りたいという気持ちもありますけど(笑)。ジャンプを読まない人に「こういうマンガって面白くないですか?」「これ面白いと思うんですよね」と提案していけたらいいですね。それがジャンプを読んでいる人にも届いたら最高。ほかにも、先に海外で評価されて日本に戻ってくるような、サブカルやメジャーとかのレッテルから逃れた見られ方をする作品も作っていきたい。

作品のノマド化

──実験的な作品が多いとおっしゃっていたとおり、トーチはほかのWebマガジンと比べてみても独特のカラーがあるように感じます。ほかのWebマンガサイトを意識されることはあるのでしょうか。

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関谷武裕

マンガそのものの歴史や文脈は意識しますが、Webマンガサイトはあんまりないですね。発信の仕方で悔しいと思うくらい良さを感じるのはツイ4さん。ツイ4の作品はTwitter上で拡散されるから、言ってしまえば自社のWebサイトに来てもらわなくてもいいわけで。4コマに特化しているからできる部分もあると思うんですけど、もはや自社媒体なんて必要ないじゃん、って新鮮でした。近年は作品がノマド化していたり、他社媒体にパラサイトして配信したりとマンガの発信の仕方も多様化してきていて、コストをかけずに作品を発表できる環境が整ってきている。

──その中で今後マンガの描き方や表現の仕方に変化は生まれてくると思いますか?

変化は常に起きてると思いますが、ページの概念がなくなったり、更新されたりしない限りは、マンガはマンガとしてこれまでの歴史や文脈の延長線上にあり続けますよね。comicoさんみたいにスクロールの概念が最上位にくるような、新しい様式で描かれると変わってくるかもしれません。でもそれをマンガと呼んでいいのか……。 “スクロール・コミック”“スクリーン・コミック”とか違う名前にしてもいい。これ採用されたらお金欲しいな(笑)。そのくらい違うことをcomicoさんはやってると認識してます。

マンガ賞もやりたい

──最後にトーチwebの今後の展望などをお聞かせいただきたいのですが。

まずは3年、5年とトーチwebを継続させて、その過程や将来の姿を皆さんに見てもらって「トーチwebもリイド社も変わってきてるじゃん」「これはダサいけど、これはイケてるよね」みたいな話をしてもらえるサイト=土地・場所を作りたい。具体的な話だと今年で2周年を迎えるので、マンガ家と読者と出版社が集まる少し規模の大きなイベントはやりたいなと思っています。あとはマンガ賞の開催も考えていて。今はまだ僕が言っているだけの段階ですが、今年中にやれたらいいな……と。現状持ち込みの作品に関しては、自由に描いていただいて構わないとしているのですが、マンガ賞に関してはテーマのようなものを明確にしてみようかと……。

──例えばどういったテーマをお考えで。

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関谷武裕

今は「劇画」がいいんじゃないかなって。「劇画」の意味を捉え直すところからやってみたい。それはリイド社だからという文脈もありますし、もう少し大人向けといいますか、今のトーチwebの読者よりも広い年齢層が読める作品があってもいいのかなと思っているんです。実際マンガ賞を始めたときに「劇画」という言葉を掲げるかはまだわかりませんが、今はそんな気持ちでいます。

──求める作家像みたいなところも、今までとは少し変わってくる可能性があるということでしょうか。

変わるというよりは、広げる。レッテルや色眼鏡なしで、“イケてる”作家や表現を見つけて発信したいということに変わりはないです。男性も読めるBL・ブロマンス作品をもっと発信したいですし、歴史やスポーツ、食、エロを題材にしたマンガだってやりたい。「劇画」と「サブカル」を広義の意味で捉えて、まだトーチに掲載されてないような絵柄やテンションの作品をもっともっと発信していきたいなと思っています。

──またこれまでとは違った系統の作品を読めるようになるかもしれないということですよね。とても楽しみです。

ありがとうございます。これからのトーチwebとリイド社にご期待ください。リイド社は今、面白い会社ですよ。

プロフィール

関谷武裕(セキヤタケヒロ)

1982年生まれ、静岡県出身。「トーチweb」創刊編集長。2006年10月リイド社入社。「コミック乱ツインズ」編集部、「戦国武将列伝」編集部副編集長を経て、2014年8月より現職。好きな麺は、汁なし担々麺。痺れや辛みのあるモノが好きです。