中村淳彦×桜壱バーゲン「漫画ルポ 中年童貞」イベントレポート

30歳を超えて性交経験のない中年童貞の壮絶な実態に、ライターの中村淳彦が迫った「ルポ 中年童貞」。それを桜壱バーゲンがマンガ化した「漫画ルポ 中年童貞」の単行本刊行を記念し、去る11月3日に東京・阿佐ヶ谷ロフトAにてトークイベント「中年童貞文化祭!!」が開催された。イベントには中村、桜壱のほか、グラビアアイドルの原田真緒が出演し、本作をさまざまな角度から語り合った。本記事ではその模様をレポートする。

取材・文/安井遼太郎

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「とんでもないものを作っているなと」(中村淳彦)

マンガが更新されるたびにTwitterで感想をつぶやいていたところ、ファン代表として呼ばれたという原田。もともと桜壱作品のファンだったといい「読後感が、どんなマンガとも違うというか……救いがない現実を淡々とルポしてくるので、この気持ちをどうしたらいいんだ!と思ってた」と「中年童貞」の衝撃について語った。司会を務めるフリーライターの大坪ケムタが桜壱に「女性受けは考えているんですか?」と問うと、桜壱は「考えてるわけないじゃないですか!」と苦笑。

f:id:pinga_comic:20161109011606j:plain 左から大坪ケムタ、中村淳彦、原田真緒、桜壱バーゲン、担当編集者の寺岡卓哉氏。

続けて乾杯を挟み、話題はコミカライズの経緯へ。そもそも事の始まりは、原作者の中村がリイド社の担当編集者・寺岡氏に企画を持ち込んだことに端を発するという。そこで寺岡氏がさまざまな作家への打診を経て、以前仕事を一緒にした桜壱に依頼をしたところ、快諾。第1回目の打ち合わせに臨んだ中村のことを桜壱が「すごくやる気がなさそうでしたね」と笑いながら回想すると、中村は「やはりバーゲンさんってコアマガジンのイメージがあって……一般の読者に届くようなものではないんだろうなと」と最初の思いを赤裸々に告白し、会場を笑いで埋め尽くした。

f:id:pinga_comic:20161109011822j:plain 桜壱バーゲン

桜壱は本作の、童貞のまま自殺したAV男優・鈴鹿イチローのエピソードにいたく感銘を受けたとのこと。「AV男優で、童貞でね、自殺しちゃうなんてね、なんのこっちゃわかんないですよね。こんな悲しい話ないなと思って。最後の言葉が『のど自慢大会に合格できなかったら死ぬ』っていうのもすごいし。これを本当にマンガで描きたいと思って。だからこの話だけ、他の話と比べて4ページだけ多く描かせてもらったんですよ」と、その魅力を熱弁した。

f:id:pinga_comic:20161109012339j:plain 「漫画ルポ 中年童貞」第1話より、坂口。

ルポをマンガ化するにあたって、桜壱は原作本以外の資料がない状態で描き進めていたという。例えば第1話に登場し、表紙も飾った童貞・坂口の姿形については「太ってて、薄ハゲで、チビで、糖尿病でだるそうにしてて……って考えていったら、あの顔になった」と、本に書いてある情報を頼りに作っていったとのこと。しかしマンガ化された原稿のチェックを特にしていなかった中村は、Web配信時に初めて第1話を読み、その完成度に絶句した。中村の知っている坂口の顔に生き写しだったからである。「これは寺岡さんとバーゲン先生は、大変なものを作っているなと、初めて気付きました」と中村は話し、普段はあまりしないSNSでの宣伝も多く行ったという。桜壱は「そのときはうれしかったですねえ」としみじみ語った。

「おならはリズムと悪意」(桜壱バーゲン)

原田はマンガを読んで気になったこととして「(作中の人物が)絶対おならをするじゃないですか。あれにはメッセージとかが込められているんですか?」と桜壱に質問をぶつける。桜壱は「あれはね……俺のリズムなんですよね。『明日から行くぞ!(ブーッ)』みたいな。あとは……悪意ですね」「ギャグにはしたくないんだけど、ギャグマンガ家なんで、出ちゃうんですよね」と話した。

f:id:pinga_comic:20161109012752j:plain 「漫画ルポ 中年童貞」より、がんばろうと決意するシーンで「ブーッ」と放屁する坂口。その音に驚いて鳩が飛んでいくこのコマは、原作者の中村もお気に入りだという。

また単行本の「中年童貞」という題字を手がけたのは、桜壱バーゲンも尊敬するマンガ家・平田弘史。担当編集者の寺岡氏は題字を書いてもらうため、平田のアトリエを訪ねたときのことを振り返り、「すごく暑い庭で、1枚書かれるたびに『次ィーッ!』と言われて、次の紙を私がサッと出すという。先生は書くと決められたら集中される方で、奥様と私が飲み物や果物を勧めても、あまり口にされず、ずーっと『中年童貞』と書き続けておられました」と回想した。そしてだんだん文字の勢いが落ちていったことを見てとった寺岡氏は「こんな文字を書くために倒れられてしまってはたまらない」と、止めに入ったとのこと。桜壱は「平田さんが実際に書いてる写真を見たんですけど、涙が出そうになりましたね。何やってるんだろうと……」と複雑な感情を吐露した。

鈴鹿イチローの出演映像も上映

イベントの後半では、各エピソードをスクリーンに映し出しながらトークを展開。第1章「『中年童貞』の受け皿となる介護業界」の後半、坂口が童貞を女性の前でカミングアウトした現場に実際に立ち会った中村は「マンガはちょっとドラマチック過ぎるんだけど。でも本当に、こういう告白をしたら、自分の人気が取り戻せるんじゃないかという思惑があったと思う」と回想した。「でもこれ、見た目が違ったらロマンチックなセリフでもありますよね! 夢を見ているピュアな人っていうか」と原田がフォローするも、「これ生き写しだからね……」と中村。

f:id:pinga_comic:20161109013119j:plain イベントの様子。

想い人の前で首を切るという行動に出た「妄想に生きる高学歴中年童貞」の回について、桜壱は「もう描くのが楽しくて。どんだけ残虐に描いてやろうかと考えて。妄想描くのも楽しかったし」と振り返った。なお初版では、最後のシーンで首の傷を描き忘れてしまったというミスがそのままになっているとのこと。本を持っている人はチェックしてみよう。

アニメやアイドルオタクの童貞に迫った「秋葉原は中年童貞天国」の回では、作中に登場する童貞・本山が自分で描いたという設定のエッチな萌えイラストを、桜壱が渾身の筆力で再現している。桜壱は「普通に描いてしまうと全然面白くないんですよ。それで下手さと、あとバカバカしさを意識しましたね。これもめちゃめちゃ楽しかったですねえ」としみじみ。

f:id:pinga_comic:20161109013347j:plain 「歯磨きをせず、歯が溶けてしまって社会的に逸脱したオタク」の描写は司会からも「あまりにひどい」「萌えのTシャツを拾ったホームレス」と評されていた。

また自殺してしまったAV男優・鈴鹿イチローの回では、実際に鈴鹿へのインタビューが収められているビデオ「東京SEXスタイル 2」の映像も流され、来場者からは感嘆の声と拍手が上がった。初めて観たという桜壱も「いやー、感動しましたね」と思わず一言。

「当事者の方、連絡ください」(中村淳彦)

イベントの終盤では、来場者からの質問に答えるコーナーも。20代の男性からは「中年童貞にならないためにはどうしたらいいですか?」という質問が寄せられ、中村は「まずいのは、理想が高くなりすぎちゃって現実味のないことに憧れ出しちゃうことなので、明日にでも(風俗に)行ったほうがいいと思いますね。ないものについて悩むなんて、ものすごく膨大な時間の無駄でしょう?」とバッサリ。桜壱は「地雷嬢がいたり、風俗も怖い面がある」としつつも「いい初体験にこだわりすぎると、あっという間に年をとってしまうんですよね」と語った。

f:id:pinga_comic:20161109013537j:plain イベントの様子。

また「中年童貞」のグッズ化の予定について問われると、Tシャツや缶バッジという定番アイテムのほか、おなら演出が特徴のパチンコ「CR 中年童貞」や、365人の童貞が描かれた日めくりカレンダー、ソーシャルゲームといった案が挙げられた。レアカードがハードな中年童貞のイラストで埋め尽くされるというソーシャルゲームの案に原田からは「誰もガチャ引かないよ!」とツッコミが。

イベントの最後には、桜壱が描いた童貞色紙を抽選でプレゼント。そして中村は「本当にこの件は取材対象を見つけるのが大変なので、当事者(中年童貞)の方、いらっしゃったら教えてください」とアピールし、これからも取材対象がいる限り追い続ける意気込みを見せ、イベントの幕は閉じられたのだった。

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