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未来漫研 Vol.6(最終回)田中圭一 前編

未来漫研 Vol.6(最終回) 田中圭一 兼業マンガ家、SNSを使った宣伝で躍進! 次代のマンガ家に必要なセルフプロデュースについて(前編)

凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第6弾にして最終回となる今回は、マンガ家の田中圭一にインタビューを行った。

マンガ家としては「ドクター秩父山」や手塚治虫作品を題材にしたパロティマンガの作者として知られる田中。実は電子書籍の販売を手がける株式会社BookLiveに所属するサラリーマンであり、京都精華大学マンガ学部の専任准教授としての顔も持つ。さらに近年でも、SNSでの盛んな宣伝活動で「Gのサムライ」「田中圭一の『ペンと箸』」「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」といった作品でスマッシュヒットを連発。前編では田中に、自らが主体となって行ったという宣伝活動の舞台裏について語ってもらった。

取材・文 / 安井遼太郎 撮影 / 大野篤志

読者よりも先に、書店にファンになってもらう

──2016年から「Gのサムライ」「田中圭一の『ペンと箸』」「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」と、何かとニュースサイトやSNSで話題を呼ぶ作品を発表されてきた田中先生ですが、やはりご自身のTwitterやFacebookを活用した販売施策が特徴的かと思います。取り組みの内容や成果について、改めて伺ってもよろしいでしょうか。

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田中圭一

「Gのサムライ」については、掲載サイトのトーチweb(リイド社)の担当さんと一緒にいろいろ考えたんですよ。まず本が売れなくなり、そのうえ大手出版社から大量の新刊が出続けるという現状においては、中小規模の書店さんには「Gのサムライ」みたいな本は絶対並ばない。またサイン色紙や特典ペーパーといった施策も、基本的に大きな書店が対象になっているというのが常で。そこをなんとかしたいなと思い、いろいろ手を打ちました。

──中小規模の書店であっても、単行本を置いてくれそうなところを探すということですね。

私も玩具メーカーでの営業経験から、店頭販促や、ファンになってくださるお店とのパイプ作りの重要性はよくわかっていたので。たとえ小さくても、「Gのサムライ」が好きだから展開したいと考えてくれる書店さんはいるだろうということで、もともと購入者特典として作ろうとしていたステッカーがあるんですが、それのプロトタイプを、書店さん向けのノベルティとして配布しようとトーチwebの担当さんから提案を受け、実施しました。

──エンドユーザー向けではなく、書店さん向けに。

そうです。それも「Gのサムライ」の販促物なんて何もない時期から配布して、書店員の皆さんに作品を知ってもらう。この担当さんの発案は、まさに慧眼でしたね。

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「Gのサムライ」

──読者ではなく、まずは書店さんから「Gのサムライ」ファンになってもらうという発想の転換ですね。発売されて以降にはどのような活動を?

書店さんからのリクエストに応じて、POPを作者自ら書くというキャンペーンを行ったり、店頭用のスタンドPOPを用意したりしましたね。スタンドPOPも担当さんのアイデアなんですけども、平積みされた本がなくなっていくと、キャラクターたちが全裸で「補充」って書かれたふんどしを着けているのが見えるという。(参照:さすがです田中圭一先生 “補充しないと売り場がゲスくなる”新作『Gのサムライ』用特製ボックスPOP - Togetterまとめ)これもこちらで印刷して書店に実際に送るとなるとすごくコストもかかるし、大きい書店さん専用の施策になっちゃうんだけど、このイラストをデータ化してトーチwebから誰でもダウンロードできるようにしたんです。それなら輸送にも印刷にもコストはかからない。しかも熱心に展開してくれる書店さんには確実に届くという形にできました。

──購入した読者の方とも、Twitterで盛んにやりとりされていましたね。

ハッシュタグ入りで書影を上げてくださったら、必ずギャグ入りのコメントを返すとかね(笑)。あと展開してくださる書店さんにもハッシュタグ付きで売り場写真をTwitterに上げてもらって、最寄りの書店と探している読者を結びつけたり。そんなふうに、SNSを使っておおよそできそうなことは全部試してみて、おかげさまで発売から4日で重版が決定しました。これはのちのちトーチの単行本の売り方の1つのモデルになったり、私は私で読者の方や書店さんとのパイプ作りになったりということで、さまざまな成果があったと思います。

TwitterやFacebookは番組

──「うつヌケ」は、やはりnote(ノート)での単話有料配信というのが特色の1つかと思われますが。

これはcakesさんのインタビュー(参照:『うつヌケ』著者・田中圭一さんに聞く、新しいマンガの作りかた|田中圭一|cakes(ケイクス))でもお話したんですが、まず最初にnoteで毎月1話を100円で販売し、それを2年間ぐらいやってファンを広げていき、そのあとで単行本を買ってもらうというやり方ですね。私もTwitterやFacebookなどをフル活用して宣伝活動をしましたが、「うつヌケ」はだいたい2000~3000人という人々が毎月買ってくれていたんです。1話100円ですからだいたい20~30万とかのお金が動くわけで、独身1人で食べていくには問題ないぐらいの金額が出ていたんです。

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田中圭一

──こちらもTwitterやFacebookでの宣伝活動が肝だったと。「ペンと箸」も告知ツイートが毎回伸びていましたし、田中先生にとってはSNSが、宣伝媒体として非常に大きな役割を持っているんですね。

これは竹熊健太郎さんがおっしゃっていたんですが、固定ファンというか、そのページを見に来てくださる常連客が何万人もいるというのは、これはもはや小さなメディアであると。私もTwitterやFacebookというのは、番組という考え方でやっています。何か常に面白いことをやってくれるという期待に応えて、お客さんに常に見に来てもらい、その中で単行本や連載の告知をしていく。見に来てくれる人はファンになってくれているから、必ず単行本を買ったり読んでくれたりするわけですね。とても重要なツールとして使っています。

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「田中圭一の『ペンと箸』」

──費用対効果という面では雑誌広告やテレビCMよりも格段に成果を上げているように見えます。

電車に乗って周りを見てみても、雑誌なんてみんな読んでいなくて、ずっとスマホを触っている。大手の出版社でも、部数にしたら5万部程度のマンガ雑誌ってありますよね。一方で、Twitterでマンガを配信している人気アカウントは、数十万のレベルでフォロワーがいる。アクティブユーザーが1割だったとしても、その雑誌とほぼ互角の訴求価値を生み出せているんですよ。そういった活動の結果は、「Gのサムライ」「ペンと箸」「うつヌケ」である程度、結果を出せたんじゃないかなという気はします。

面白いマンガを描くための兼業

──田中先生はサラリーマンや大学講師としての顔も持っていらっしゃいますが、現在の1週間のスケジュールというのはざっくりどのような感じで動いていらっしゃるんでしょうか。

今はBookLiveに行くのは月1回くらいで、平日はほとんど精華大学に行っています。そして土日はマンガを描いて。1週間のうち月火水木ぐらいまで京都で、金土日が東京といった感じかな。だから忙しいは忙しいです。いつかは落ち着くんじゃないかと思いながらやってるんだけど、なかなか楽にならなくて……。

──ちょっと突っ込んだ話なんですけれど、以前のイベントで「働いている割に貯金が増えていないんです」っておっしゃっていましたが(参照:「マンガは拡張する」公開収録第4回レポート 兼業マンガ家 田中圭一 × 兼業編集者 柿崎俊道 マルチすぎる2人の系譜に迫る)、状況は変わられましたか?

いやー、変わってないです。新刊が割とヒットしてくれたので、ようやく貯金できるかなというところ。こんなにがんばって働いてるのに貯金できないのはある種経営者としてダメなんですけどね(笑)。本当なら京都に移住して完全に拠点を移せばいいんですけど、私の場合、東京でも活動をして、交通費などがかかっているというのが大きいです。私が今貯金できていないのはいろいろ失敗もあってのことなので、そういうことがない限りは、マンガ家とサラリーマン両方やっていれば全然余裕で生活できると思いますよ。

──マンガ家だけに専念されるということは今でも考えていないんでしょうか。

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田中圭一

考えてないです。逆に面白いマンガを描くためには、サラリーマンとか大学の先生であることはむしろマストだと思っています。そういう場を持たないで自分の頭だけで考えるのにはもう限界が来ているので(笑)。私は玩具業界に10年いた後、ゲームの開発メーカー、ソフトウェアの開発会社、電子書籍の販売会社という来歴なんですが、普通のマンガ家が知らないであろう、当時のITの最新技術を、給料をもらいつつ学べたというのはすごくいいことだと思っていますね。

──マンガ家としてはむしろすごくおいしいことだと。

そうですね、大変だとは思うけど。大学で教えることだって、10代の子供たちと向き合っているわけで、彼らにとって何がウケて何がウケないかをリアルタイムでリサーチできるわけですよ。例えばギャグマンガコースの初年度に、これが笑いの最上級だと思って、ダウンタウンの松本人志さんのコントを観せるわけなんです。そしたら見事に誰も笑わないんですね。考えてみたら僕らの世代は「ドリフ」「ひょうきん族」「ごっつええ感じ」というふうに、受け取るギャグのレベルが階段状になっていて、コントの中で「ここが面白いポイント」っていうことが言われなくても自然にわかるように鍛えられてきたんだけど、それを知らない世代は、どこで笑っていいのかわからない。やっぱり今の人にウケようと思ったら、ツッコミなり観客の笑い声なりが細かく必要なんだなと思いましたね。

プロフィール

田中圭一(タナカケイイチ)
田中圭一

手塚治虫タッチのパロディマンガ「神罰」がヒット。著名作家の絵柄を真似た下ネタギャグを得意とする。また、デビュー当時からサラリーマンを兼業する「二足のわらじマンガ家」としても有名。2017年現在は京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科 ギャグマンガコースで専任准教授を務めながら、株式会社BookLiveにも勤務。