「魚を飼う」んじゃなくて「水槽をやる」という概念の面白さ!「水槽は経費に入りませんか?」

猫や犬、鳥、は虫類など、動物と暮らす様子を描くマンガはたくさんある。特に自分が馴染みのない生き物の話は、独特の楽しみや苦労がいちいち新鮮。ここ最近で特に目を引いたのは水槽の世界を描いた「水槽は経費に入りませんか?」だ。

本作は、作者が水槽(と猫)と暮らす様子を描いたエッセイマンガ。作者の安堂維子里は初単行本「世界の合言葉は水」から水をテーマにしており、その後「水の箱庭」という水槽を題材にした物語を描いている。「水槽は経費に入りませんか?」は、その延長線上にある作品だ。

魚そのものは、学校や家で飼ったことがある人も多いだろう。同じ程度の感覚の僕にとっては、まず「水槽をやる」というフレーズが新鮮だった。この言葉は「水槽は経費に入りませんか?」の3話で登場。「エビ」「おそらく水槽をやる人が一番たくさん購入する生体」という具合だ。

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普段「美味しい」くらいにしか思っていないエビ。その生きているときの生態を知れるのもこの作品の面白いところ。


これだけ読むと「へー、エビって人気なんだ」と思うだろう。それは合っているといえば合っているが、ちょっと真意とはニュアンスが違う。ここで描かれるエビを買う理由は、エビ自体がペットとしてかわいいということではなく、「水槽のお掃除屋さんとして優秀だから、ほかの魚と一緒に水槽に入れる人が多い」というものだ。

そう、つまり「水槽をやる」という表現には、「特定の魚を飼う」というだけでなく「魚を飼うための生態系を作る」という意味合いが含まれている。水を替えたり、水草などを入れたりといったことはもちろん、同じ水槽に入れられる魚を考えたり、エビのように水槽内の環境を整えてくれる生体を入れたりする。陸上で暮らす動物たちと違って、直接触れ合うことはほとんどできないが、ひとつの生態系を作っていく面白さは水槽ならではだ。

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「フグのなかで一番癒やされない」らしい南米淡水フグだが、作中で描かれる姿を見ると興味が……。


そう考えていくと、この作品が水槽だけでなく飼い猫を描いているのもある意味当然のことに思えてくる。水槽の外にいる猫と、水槽の内側の生き物たちを同居させるためにあれこれ考えるのも、環境作りのひとつなのだ。だから猫が食べてしまわないよう、水槽の蓋のことも考える。

魚たちの暮らしぶりにほっこりするのはもちろんだが、「水槽をやる」という楽しみ方の面白さに惹かれるこのエッセイ。本格的なアクアリウムを描いた前出の「水の箱庭」も読むとますます面白さを感じられるので、興味のある人はぜひ一緒に読んでみてほしい。

(文/小林聖)