読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

未来漫研 Vol.6(最終回)田中圭一 後編

未来漫研 Vol.6(最終回) 田中圭一 兼業マンガ家、SNSを使った宣伝で躍進! 次代のマンガ家に必要なセルフプロデュースについて(後編)

凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第6弾にして最終回となる今回は、マンガ家の田中圭一にインタビューを行った。

マンガ家としては「ドクター秩父山」や手塚治虫作品を題材にしたパロティマンガの作者として知られる田中。実は電子書籍の販売を手がける株式会社BookLiveに所属するサラリーマンであり、京都精華大学マンガ学部の講師としての顔も持つ。さらに近年でも、SNSでの盛んな宣伝活動で「Gのサムライ」「田中圭一の『ペンと箸』」「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」といった作品でスマッシュヒットを連発。後編では田中に、今後のマンガ家に必要なことや、マンガ界について考えていることを聞いた。

取材・文 / 安井遼太郎 撮影 / 大野篤志

自分の何がウケているかを知ること

──大学では学生さんに、今おっしゃっていただいたような、SNSの使い方といった事柄も教えられるんでしょうか。

まさに2017年4月から「新世代マンガコース」(参照:新世代マンガコース | マンガ学部 | 京都精華大学)というのがスタートする予定でして、そこではいわゆるセルフプロデュースのできるマンガ家を育成しようと考えています。縦スクロールだとかデジタルだとかそういうスタイルの話ではなく、「面白いマンガがここにある」ということを伝えていく方法というのを、これからはマンガ家も多少知らなくちゃいけないのかなと。SNSでたくさん「いいね」を集めていたり、フォロワーが多数いたりという若いマンガ家さんに特別講義に来てもらったりしながら進めていきたいと思っています。

f:id:pinga_comic:20170321204555j:plain
田中圭一

──田中先生が考えられる、これからのマンガ家に必要な資質とはなんでしょうか。

自分で自作の魅力を発信できる力は大事だとはやはり思いますね。もちろんそれを請け負ってくれるような出版社だったり、エージェントだったりと組むのでもいい。それと重要なのは、自分の何がウケているのかを常に把握しておくことかなあ。これもSNSを使えば簡単にできるようになりました。

──周囲の評判を聞きながら作品を描いていくということでしょうか。

もちろん「周りのウケなんて気にしない、俺が面白いと思ったことだけを描く」というスタンスもありえて、そういうところからすごいヒットや才能が生まれるのも事実です。でも私はギャグマンガ家だったので、SNSで読者と対話しながら描いていくというのがすごくハマりました。ウケるか、ウケないかが、画像を上げて1時間後には結果が出るわけじゃないですか。もう小さなマーケティングリサーチですよね。そういうことを繰り返して、読者にウケるためにはどんなものを描けばいいのか、考えながらやっていく。

──そういう能力に長けた人が、今後の世を長く生き抜いていくのではないかと。

デビュー作がヒットしても、次が続かないっていうマンガ家さんってたくさんいるじゃないですか。今度大学で開講する「新世代マンガコース」では、おおひなたごうさんと私が専任教員として付くんですが、どちらも1回人気が低迷して、それをなんとか自分の力で復活させた経験があるわけですよ。人気が落ちてしまって、考えに考えて、いろいろなことを試して、結果もう一度ヒットにたどり着くっていう、この過程ってすごく重要で、ここを成し遂げた人が教えることに意味があると思うんですね。せっかくマンガ家になるんだったら、一生の仕事にできるのが理想ですから。そのためには常に自分が読者に対して発信していくことの意味合いとか、発信していったことによって読者をどうしたいのかということを常に考えてほしいですね。

──田中先生に一生続けてもいいと思わせるだけの、マンガ家という職業の魅力はどこにあるんでしょうか。

f:id:pinga_comic:20170321204553j:plain
田中圭一

マンガというのは映像や小説と比較して、脳内のイメージを読者に簡単に伝えることができて、製造コストも安いですよね。しかもそれでいて、単行本が大ヒットしたら数億円レベルのリターンも見込める。20代そこそこの個人事業主がそんな大金を手にする可能性がある職業って、マンガ家ぐらいじゃないかと思います。

──大企業に入ったり起業する以外だと、確かにそうかもしれません。

もう1つ私が常々言ってるのは、マンガ家というのは男女差別のない職業だということですね。人気さえあればよくて、女性であるということで原稿料や印税を下げられたりしない。

──なるほど。おそらく田中先生が教えておられる学生さんの中にはマンガ家という職業を選ばれない方もいらっしゃると思うのですが、それに対して思われることはありますか。

もちろん学生さんでも「私、手堅く就職します」って方はたくさんいらっしゃいますし、魅力を感じることは人それぞれですから尊重されるべきです。ただ……今の時代、就職も実は手堅くないんですよね。私はIT系の会社を渡り歩きましたけど、そういう会社で人気のあるところでも、10年後どうなってるかわからない(笑)。もちろんマンガ家になるためにも、デビューして連載を持って単行本を出してというハードルを超える必要はあって、そのへんは会社に入ったほうが楽かもしれない。でも長い目で見れば、会社に入って長期間そこで過ごすことのリスクとかデメリットもたくさんあるんですよね。ブラック企業の問題がこれだけ叫ばれている中、そういうところに目をつむって、就職のほうが安定していて楽だと考えるのはちょっと危ないと思いますね。

マンガには、まだ勝機がある

──田中先生が望まれるマンガ界の未来というのはどのようなものでしょうか。

そうですね……自分の望みというのとはまた違うかもしれませんが、今回私がnoteを使って、データを直接読者に販売し、それなりに売り上げを立てられたというのは大きな希望だと思っています。本当に私はほかの何もせずに「うつヌケ」だけ描いていれば、それだけでギリギリ生活できるくらいの収入はあったので、これは今仕事がなくなってしまったマンガ家さんや、マンガ家志望の皆さんにとっては、少しは明るい材料ではないかなと。

f:id:pinga_comic:20170322110743j:plain
「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」

──確かに2000人のファンのためだけに描いて、その人たちが払ってくれる月100円だけで生活ができるというのは、マンガ家としてはある意味とても幸せなことですね。

もちろんこれは「うつヌケ」が取材レポートっていう形式のマンガだからというのもあると思うんですよね。それこそ「Gのサムライ」を1話100円で売っても売れなかったと思いますし。あれはWebでゲラゲラ笑って読んでもらって、その中でもキャラクターやギャグを好きになってくれた人に、ファンアイテムとして単行本を買ってもらうというビジネスモデルですから。

──作品に応じて、宣伝や販売の手法も変えていくべきであると。

f:id:pinga_comic:20170321204556j:plain
田中圭一が体力作りのため着けているアンクルウェイト。

いろんなやり方をハイブリッドしていく必要はあると思います。今ってマンガは無料で読むものになっちゃっていて、マンガ家が食えなくなっちゃって、志望者も減って業界はどんどん先細っていくという悲観的な見方もあると思うんですが、そういう人には「やりようはある」ということを提示できたのかなと。だってソーシャルゲームがあんなに課金に成功しているんだから、マンガがまったく太刀打ちできないってことはないはずじゃないですか(笑)。

──やり方によっては、マンガも勝機はあると。

日本人ってやっぱりマンガを読む力がすごくあるし、マンガを描く人々のスキルも非常に高いので、あとはその間をつなぐ部分がうまく作用すればなんとかなると思うんですよ。今はちょっとその間のパイプが細くなって、やや詰まりかかっている。そこを太いパイプに入れ替えられるような、言わばソーシャルゲーム的な課金モデルがうまく回っていけば、かつての雑誌でドーンと売れて、単行本がドーンと売れてっていうのを再現するのも不可能じゃないとは思います。あんまり悪いほうに考えなければ、本当に、やりようはあると思いますよ。

プロフィール

田中圭一(タナカケイイチ)
田中圭一

手塚治虫タッチのパロディマンガ「神罰」がヒット。著名作家の絵柄を真似た下ネタギャグを得意とする。また、デビュー当時からサラリーマンを兼業する「二足のわらじマンガ家」としても有名。2017年現在は京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科 ギャグマンガコースで専任准教授を務めながら、株式会社BookLiveにも勤務。