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姫乃たまの「人生には明らかに意味がある」第1回

ドキュメンタリー映画が好きです。ドラマチックな映像も、平坦な映像も、それがどれだけ編集されていても、されていなくても、すべての人生は尊いことがわかるからです。

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姫乃たま

私は地下アイドルという職業に就いていて、人前で歌ったり喋ったりと、舞台では華々しいのですが、その後は自分で請求書を書いたり、何かと地味な業務も多い仕事です。とは言え、私はこの仕事のハレとケを気に入っています。華々しいことにも、地味なことにも、それぞれの良さがあります。ライブハウスですれ違う、売れているアイドルにも、売れていないアイドルにも、頑張っているアイドルにも、頑張っていないアイドルにも、それぞれの魅力があります。業界は悲喜こもごもで、喜びはもちろん、悲しみにも、味わい深さがあります。

そんな私は、マンガでも桜玉吉さんの作品や、卯月妙子さんの「人生仮免中」のような、人の人生が見えるようなものが好きです。当連載では私が隙間産業の人間として、隙間からエッセイマンガを覗いていきます。地上も地下も、隙間も、隙間じゃないところでも、人生は平等に尊いと、私は思っています。

はいっ! そーしーてー、今回ご紹介する作品はっ!「かふん昔ばなし」でっす(連載初回かつWebの記事ということで、気合いを入れて、テンションを上げております)!!!

「かふん昔ばなし」には、話の終わりに必ず、照れ隠しのような字で「フィクションです」と書かれています。主人公のかふんは、作者であるかふんさんの子供時代がモデルになっているようです。

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「かふん昔ばなし」より。

かふんは主人公なのに、ほかの登場人物よりもずっとシンプルに描かれていて、ほぼ白玉のような、愛嬌のある見た目をしています。気が弱くて、アレルギーにも弱いです。友達が家に遊びに来るまでそわそわして何も手に付かなかったり、遊びに来たら来たで友達の言動にいちいち冷や冷やしたり、飼育委員になれて喜んだり、思ったよりザリガニをうまく飼育できなかったり。でもゲームさえあれば、かふんの世界は平和だったりします。

学校でのエピソードも多く含まれていますが、ずっと夏休みの日みたいな気持ちで読める作品です。子供の時間感覚って、長くて、ときどき無駄で、いま思えば最高でしたよね。

そんな、コメディだけど、ノスタルジーで勝手に少し切なくなる本作の魅力は、なんと言っても「むなしさ」です。

「バレンタインデー編」では、バレンタインにたくさんチョコをもらってしまった同級生の男の子に、「草むらに隠しておけば先生に怒られないよ」と提案して、「頭良いよ!」と褒められ、子供心に「悲しい優越感」を味わいます。自分はチョコレートをもらっていないけど、チョコレートをたくさんもらっている同級生に褒められて、ちょっぴり間違った優越感。なんて、複雑な感情……。

放課後に草むらへ戻ったら、見知らぬおじさんが勝手にチョコレートを食べてたり、おこぼれで同級生からチョコレートをひとつだけもらって喜んだり、魅力的な「なんともいえないむなしさ」がたくさん詰まっています。

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「かふん昔ばなし」より。

かふんは、折り紙セットに数枚しか入っていない金色の折り紙がほしかったのに、同級生に取られて、悔しくて本気で泣いて、でも全部金色だけの折り紙セットをもらったら、不思議とむなしくて……。人生って面白いですね。

プロフィール

姫乃たま(ヒメノタマ)
姫乃たま

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに「僕とジョルジュ」、著書に「潜行~地下アイドルの人に言えない生活」(サイゾー社)がある。