姫乃たまの「人生には明らかに意味がある」 第8回

山に登りたい。「今ここで足をすべらせたら」とか、「このロープが切れたら」とか、目の前の状況しか考えられないようになって、そして山頂からの景色を眺めて敬虔な気持ちになりたい。これが最近の私の欲望です。

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姫乃たま

しかし現実は昼夜問わず机の前に座ってパソコンを叩くフリーライターの日々。時々、地下アイドルとしてライブに出演しては、「この人達、私の歌ってるところを見て退屈じゃないのかしら……」と悩んでいるうちに出番が終わる不安症人間でもあります。私は毎日、じっとしていて、とても不安です。

アウトドアなイメージがあまりにもない私を、「たまちゃんが山登りなんかしたらエッセイの仕事とか来そう!」と友人達は笑います。えー、山登りも仕事になっちゃうのかあ。まあでもそれもいいかな……なんて、にやけていたら、もうあった! しかもとっても素敵な植物の絵を描く谷口菜津子さんの登山マンガでした。

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マンガ家の谷口菜津子さんが山登りをしてみるマンガ「人生山あり谷口」は、タイトル通り自分の人生を振り返りながら登山する……はずが、なかなか上手くいきません! まず、何を着たらいいのかわからない。なんとなく登れると勘違いしてしまう。体力がない……等々。しかし、それでもとにかく友人を誘って何度か山に登るうち、人生は山のようであると思い始めます。

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「人生山あり谷口」より。「人生山あり谷口」より。(c)谷口菜津子/トーチweb(リイド社)

登山マンガにも関わらず、最初に選んだ山が高尾山(東京の小学生が遠足で連れて行かれる。作中でも山好きの人から「丘」と表現されるような山)で、さらに集合時間が14時という時点で最高に愛おしくて面白いです。山と江ノ島は1日の終わりが早いですよね……。

私は山に登れば疲労によるナチュラルハイと、壮大な自然のおかげですぐに清々しい気持ちになりそうだと踏んでいたのですが、この作品を読む限りそんなことなさそうです。特に谷口さんの生活(昼夜問わず自宅で作業。生活が不規則。酒飲みで体力なし)が自分と酷似しているので、参考になることしきり。私もきっと山に登ったらてんてこ舞いになるんだろうなあ……。

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「人生山あり谷口」より。「人生山あり谷口」より。(c)谷口菜津子/トーチweb(リイド社)

山中での個性豊かで優しい友人達との会話や、小さなトラブルもくすっと笑えます。そして見どころはなんと言っても、一コマずつ一枚絵のように美しいイラストです。谷口さんならではのタッチと色遣いが魅力的な植物が、全編フルカラーで描かれています。パソコンのデスクトップにしたい。

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「人生山あり谷口」より。「人生山あり谷口」より。(c)谷口菜津子/トーチweb(リイド社)

山に登っても、想像していたほどの素晴らしいことは滅多に起こらないようです。山を登って降りて、途中で広い景色を見て。人生もまた、嬉しいことがあって、悲しいことがあって、時々素晴らしいことがあって。なんでもないけど振り返ってみれば、当時は気が付かなかった思い出になっていたりして。やっぱり山に登ってみたいなあ。

追記:人生山あり谷ありということで、当連載も今回で最終回になります。のぼりの時も、くだりの時も、人生には明らかに意味があります。そして私は漫画が大好きです。またどこかでお目にかかります。

プロフィール

姫乃たま(ヒメノタマ)
姫乃たま

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに「僕とジョルジュ」、著書に「潜行~地下アイドルの人に言えない生活」(サイゾー社)がある。