「トーベヤンソン・ニューヨークがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!」第2回

こんにちは、はじめまして。玉木大地と申します。トーベヤンソン・ニューヨーク(TJNY)ではキーボードを弾いていまして、オノマトペ大臣のアルバム『街の踊り』で録音を担当したりもしています。普段はIT企業でエンジニア兼デザイナーとして働いています。

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トーベヤンソン・ニューヨーク

このコラム連載は「ウェブ漫画について」TJNYメンバーがそれぞれの目線から執筆対象作品を選んで「自由に」書くという形でお話をいただいております。第二回目ということで、普通ならもっと知名度の高いメンバーが書けばいいのでしょうけれども、私が筆を取ることと相成りました。前回の西村さんが見せた「副業漫画」や「副業としてのバンド」という視点は、約五年バンドメンバーとして過ごしてきた中で初めて聞いた話で「そんなことを考えていたのか」と興味深く読めました。

そんな中で、今回私が選んだ作品は『ニューヨークで考え中/近藤聡乃』です。著者のニューヨークでの生活が日記のような形式で描かれたゆるーい漫画で、だいたい一話のボリュームは二頁。「タオルは絶対にタマゴ色でなくてはならない」とか「見知らぬ人に靴を褒められた」とか、「スタジオと自宅が離れていた時期はふるわなかった」とか「実はニューヨークの冬はあたたかい」といった、些細なお話が描かれています。

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突然に道端で他人に靴を褒められる近藤聡乃。

私が今回『ニューヨークで考え中』を選んだ理由は二つです。

一つ目は単純に、普段の生活でウェブ漫画をほとんど読んでいない中で、この作品だけは連載開始からずっと読み続けていることです。私が大学生のころは「新都社」や「pixiv」といった、ウェブ漫画のプラットフォームが盛んで、当時暇だったこともあって、片っ端から読み漁っていました。ただ社会人として働き始めてからは、忙しさもありますが、単行本化を前提とした作品が増えたことからWebで読む意義が薄れ、あまり興味関心を持たなくなっていきました。そんな中でこの作品を読み続けているのは、著者に対する愛と、スマホで違和感なく読める仕組みと、更新を察知する習慣ができていたことからだと思っています。

私には職業柄、ウェブ漫画の「ビューア」に対する嫌悪感が強くあります。あれは「コンテンツ保護」と「サービスの独自性」のためのもので、読者にとっては無用の長物です。スマホからだと操作し難かったり、SNSに投稿し難かったりと、たとえ作品が気に入っても他人に勧める気持ちになれません(もう少し上手くやれる気はするのですけれど)。その点『ニューヨークで〜』は、粗雑と言ってはそれまでですが、画像一枚がベタ貼りで、更新があったことを筆者のTwitterで知って、スマホで読んで、はいおしまい、と出来る気軽さがあります。まあそんな訳で、最近のウェブ漫画の仕組みにあまりいい気持ちのしない私が素直に読める「一話完結で読み物としてちょうどいい量」で連載されていたこともあって、これまで約四年間読み続けてきたわけです。

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「ニューヨークで考え中」単行本1巻。

二つ目の理由は、著者に対する愛です。いかに読みやすい作品や仕組みであっても、著者や作品に強い関心がなければ、ずっと追い続けたりはしません。私は漫画やイラスト集はもちろん、アニメーション作品の原画なども買う程度には近藤聡乃さんのファンなのですが、それは働き始めたころに『はこにわ虫』という作品の一節に救われた経験があったことに端を発します。

私は、バンド内で文化的素養が高いほうとは言えません。文化的素養カーストの下位に属しつつ、社会人経験で得たスキルを用いてマネージャー業もこなすことでバンドに貢献している状況です。ただ社会的にちゃんとした人間かというとそれも怪しく、偶然得た「手に職スキル」を発揮することで、なんとかサラリーマンとしての存在価値を維持しているのです。

このように世俗と超俗の間で「中ぶらりん」な自分を省みて、たびたび強い疎外感を感じることがあります。それはバンドに限った話ではなく、働き始めてすぐの頃から「自分のなさ」を強く意識するようになっていました。そんな時、ふと『はこにわ虫』を読んで「あなたはそのままでいいのだ」と言われた気がして、強く救われた思いになったのでした。そのおかげで社会人生活を諦めずにいられたくらいです。何故そのように感じたか、その理由は当時はよくわからず「僕は彼女と似た感性を持っていて、それを表現してくれるから」というのを、違和感を持ちながら仮の理由として持ち続けていました。

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すぐ日本へ帰るつもりだったのに、気がつくとニューヨークに滞在し続けていることに自分で驚く近藤聡乃。

そんな中、今回のコラムを書くにあたって、担当編集の方に「なぜ自分は近藤聡乃さんのことを好きなのかがはっきりしない」と相談すると、「彼女はふと思い立ってニューヨークに住み続けるような、好きなことに突き進む、ある意味で強い自分を持っている人で、中ぶらりんなあなたはそれに惹かれているのでは」と言われてハッとしました。

確かにその通りで、彼女は僕と似ているどころか、全然違う人だったのでした。

中ぶらりんで自分のない自分を、彼女のように強く持ちたい。その憧れが、ニューヨークという地の、現実の日常ひとつひとつに引き出されていたのではと今では思っています。

プロフィール

トーベヤンソン・ニューヨーク
トーベヤンソン・ニューヨーク

2011年結成の8人組バンド。グラフィックデザイナーの森敬太(Gt)を中心に、漫画家の西村ツチカ(Gt)と金子朝一(Vo)、サラリーマンラッパー・オノマトペ大臣(MC)、トラックメーカーのmochilon(Ba)、米国留学中のベーシスト・唐木元(Key)、東証一部企業のプログラマー玉木大地(Key)、ジェットコースターポップユニット・スカートの澤部渡(Dr)、という年齢もコンテクストも違う8人によって構成される。2015年12月に、初のアルバム「Someone Like You」をリリース。

また森は自主漫画レーベル「ジオラマブックス」も主催。TJNYメンバーが執筆陣として多数参加するマンガ誌「ユースカ」の最新第5号が、5月に発売されたばかり。取り扱い書店の情報など詳細は、レーベルの公式Twitterアカウントでチェック!
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