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「トーベヤンソン・ニューヨークがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!」第3回

はじめまして、オノマトペ大臣と申します。普段は会社員として営業職に就きながら、休日を利用して音楽を楽しんでいます。

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トーベヤンソン・ニューヨーク

私が所属するバンド、トーベヤンソン・ニューヨークは漫画家、デザイナー、会社員など様々な職業を生業とする7人のメンバーで構成されており、私はラッパー兼、作詞担当としてこのバンドに携わっています。メンバーのほとんどが暇さえあれば黒枠のコマの中にその身を投じる漫画大好き人間のため、この連載は各々が愛する漫画、とくにWeb漫画について大いに語るという趣旨になっています。

メンバーの「ほとんど」と書いたのには理由があり、何を隠そう私は漫画を読んだ経験がほとんどありません。「嫌い」というわけではないのですが、幼少期に我が家の本棚には週刊少年誌が置かれることがなく、せいぜいあるのは「まんが日本の歴史」と「ファーブル昆虫記」。知育の意図(と、親の愛)を感じずにはいられない環境は私を漫画という習慣から遠ざけるには十分過ぎました。

そんな漫画筋力が著しく乏しい私でも興味のある作品はないかなあと思いPinga内を検索して辿り着いたのが今回紹介する、まずりんさんの「独身OLのすべて」です。全体が甘い毒でコーティングされていて、サクサクと読み進められる源氏パイみたいな作品でした! 味わい深すぎ! 病みつきになりました。普段会社員として働く私にとってOLについて理解することは、時として為替の値動き以上に重要です。入社8年目の経験で知った気になっていましたが、今回この作品を読み進めて、自分の浅はかさに気づきました。

1話は大体5~10コマ程。「自撮り」「女子会」「合コン」といったガールズテーマと「新入社員」「残業」「社内恋愛」といった社員テーマが、絶妙な緊張感を持って関係しあいながら物語は展開します。合コンの時の女性陣の高度な戦略、女子会で繰り広げられるヒエラルキーを巡る攻防。それぞれのキャラクターごとに確信犯的な振る舞いがあり、その意図を見抜く人がいる。普段我々がオフィスで見ているのとは違う、生臭い野生のOLたちの姿に怖れとも尊敬ともつかぬ新しい感情が立ち上がりました。

この作品で素晴らしいなぁと思ったのは、例えば「自撮り」に関してのところ。美しく写すために、非常に無理な態勢で写真を撮っている大学の後輩の“ねつ造された美”をタマ子たちは見抜き、ここぞとばかりに嘲笑します。しかしその次のコマでは、実は自分たちも大量の自撮り画像を保存し、美を捏造していることが明かされます。相手を嘲笑するだけではただのあるあるともなりかねませんが、翻って自分たちも同じ罪を背負った共犯者であることが公開されている点はとても人間らしく、独身OLとは何者であるか少し分かったような気がしました。

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「独身OLのすべて」単行本1巻。

先のエピソードでわかるのは「独身OL」という記号的な面白さ。一方で類型化された「理想のOL像」を各人が持ちながら、どうしようもなくこぼれ落ちてしまうキャラクターの個性も目を引きます。例えば「独身OLと終電」(※編集部注:現在Web公開は終了。今秋発売の5巻に収録予定)の話の中では、残業中にイケメン君がタマ子に好意を寄せているような素振りを見せますが、タマ子は割と淡白な対応に終始します。普通ならばイケメン君を手中に収めようと、色々なワザを繰り出し点数を稼ぐのが定石だと思うのですが、彼の気持ちに気づいてか気づかずかタマ子はいつも通り。仕事を手伝ってくれたお礼にと、へっぽこなキーホルダーを差し出す始末。OLの教科書にはないだろう奇抜な行動に見えますが、このエピソードからはドラマが動く淡くも美しい気配が漂っていました。

「独身OL」とカテゴライズをしながら、個の部分にもしっかりと視線を向けることでキャラクターたちに生の息吹を与えている。作品が熱を帯びている由縁は、そこにあるのではないかと感じました。私もメーカー勤務の営業マンとして働きながら、ベロ出してラップなどしています。「既婚営業マンのすべて」の登場人物として、タマ子やノブ子やマユ子のように暴れまわってやろうと思います。

プロフィール

トーベヤンソン・ニューヨーク
トーベヤンソン・ニューヨーク

2011年結成の8人組バンド。グラフィックデザイナーの森敬太(Gt)を中心に、漫画家の西村ツチカ(Gt)と金子朝一(Vo)、サラリーマンラッパー・オノマトペ大臣(MC)、トラックメーカーのmochilon(Ba)、米国留学中のベーシスト・唐木元(Key)、東証一部企業のプログラマー玉木大地(Key)、ジェットコースターポップユニット・スカートの澤部渡(Dr)、という年齢もコンテクストも違う8人によって構成される。2015年12月に、初のアルバム「Someone Like You」をリリース。

また森は自主漫画レーベル「ジオラマブックス」も主催。TJNYメンバーが執筆陣として多数参加するマンガ誌「ユースカ」の最新第5号が、5月に発売されたばかり。取り扱い書店の情報など詳細は、レーベルの公式Twitterアカウントでチェック!
» トーベヤンソン・ニューヨーク公式サイト
» ジオラマブックス@dioramabooks|Twitter