「トーベヤンソン・ニューヨークがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!」第6回

はじめまして、金子朝一と申します。普段は収入には全く繋がらない漫画を描いております。参加していますトーベヤンソン・ニューヨーク(TJNY)では、ボーカルを担当しています。

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トーベヤンソン・ニューヨーク

TJNYというバンドは「漫画」と「音楽」をきっかけにメンバーが集い結成されました。私も例外でなく、「漫画」と「音楽」が好きという理由で参加したのですが、本当に「ただ好き」というだけで、楽器もできない私は着の身着のまま練習スタジオへ入り、様々な楽器をたらい回しされたあげく、いつの間にか、ボーカルというポジションに落ち着きました。ボーカルと言っても、これがまたド下手なんですが、なんだかんだで部活感覚で楽しくやっています。

漫画を描くようになったきっかけはいくつかあるのですが、そのうちのひとつが中学生の頃に古本屋で出会った「ガロ」という漫画雑誌です。そこに掲載されていた作家達の作品の多くは、わかりやすい起承転結といった展開はなく、(手垢まみれの言葉にはなりますが)叙情的であったり、はたまたナンセンスで不条理であったりと、カルチャーショックと言えば大げさになりますが、とにかく今まで自分が読んでいた漫画とは大きくかけ離れたものでした。私がその時に感じたのが、漫画の自由度の高さ、それと「俺でも描けそうじゃん」ってことでした。大きな誤りに気がつくのはもう少し後の話になります。

きっかけが「ガロ」だったこともあり、私的かつ叙情的な作品を描く安部慎一先生や鈴木翁二先生の作品、また「ガロ」ではないのですが、「妖怪ハンター」や「マッドメン」といった代表作で知られる諸星大二郎先生の作品を愛読しています。細部に宿るリアリティと、それを下敷きにした上で描かれる漫画ならではの表現によるセンスオブワンダー、彼らの漫画に共通する、その二つの要素に私は魅力を感じています。

トーチwebに掲載されている「電話・睡眠・音楽」もまた、そんなリアリティとセンスオブワンダーに満ちた作品です。

www.to-ti.in

「電話・睡眠・音楽」は、ある1人の女性が、渋谷へ音楽を聞きに行くという話です。冒頭、主人公の女性は、うまくいってない恋人への留守番電話にビアガーデンへ誘うメッセージを残そうとするのですが、「こんなの送れない」と独り言ち、風呂へ入り、服も着ずにそのままベッドの上で夜までを過ごします。

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「電話・睡眠・音楽」の入浴シーン。体を洗う順番や、徐々に湯がたまっていく様子が丁寧に描写されている。

服を脱ぎ、風呂へ入り、出るまでの6ページには、髪を濡らし、シャンプーで泡立て、シャワーで洗い流すといった女性の一挙手一投足が丁寧に描かれています。同時に浴槽に湯が溜まっていく様子も描かれていて、時間の経過を改めて意識します。そうした細やかな描写から、主人公の孤独感や不安、自信、それに至るまでの物語を想像させられます。台詞回しや背景から滲み出る生活感、そこから生まれる登場人物の人生を覗いてるかのような感覚、私が惹かれる安部慎一作品の魅力と同じものを、より身近でより新鮮さを持って感じました。

後半は、日常と離れた空間であるナイトクラブに身を置くことで覚える不思議な感覚が、水彩の濃淡で絵画的に描かれた主人公の視界を通して表現されています。主人公とその知り合いとのコミュニケーションの覚束なさや、ふと我に返って、現在時刻を確認したりするなど、誰にでも身に覚えのあるような瞬間が淡々と映し出されていきます。決してポジティヴな華やかさだけではない非日常の空間です。この辺りは、TJNYで演奏し終えた後のライブハウス等で手持ち無沙汰で帰るに帰れない所在のなさを山ほど経験している私には痛いほどリアルでした。

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夜遊びの中で眠たくなり、時計で時間を確認する主人公。始発までは、まだしばらくかかる。

終盤、夜の感傷に浸るでもなく、とにかく気だるく、早く家に帰ってやること済まして楽になりたいということを考えながら渋谷の街を歩く主人公。それを迎える青空が日常に戻ったことを示します。「電話・睡眠・音楽」が描くリアリティかつセンスオブワンダーを表す象徴的なシーンではないでしょうか。

私が漫画の面白さを知るきっかけとなった「ガロ」のように、「電話・睡眠・音楽」もいつの時代でも人の心に響く普遍的な作品だと思います。そして、これが雑誌ではなく、ウェブで読めるということも何だか良い気がします。

PINGA編集部:「トーベヤンソン・ニューヨークがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!」は今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

プロフィール

トーベヤンソン・ニューヨーク
トーベヤンソン・ニューヨーク

2011年結成の8人組バンド。グラフィックデザイナーの森敬太(Gt)を中心に、漫画家の西村ツチカ(Gt)と金子朝一(Vo)、サラリーマンラッパー・オノマトペ大臣(MC)、トラックメーカーのmochilon(Ba)、米国留学中のベーシスト・唐木元(Key)、東証一部企業のプログラマー玉木大地(Key)、ジェットコースターポップユニット・スカートの澤部渡(Dr)、という年齢もコンテクストも違う8人によって構成される。2015年12月に、初のアルバム「Someone Like You」をリリース。

また森は自主漫画レーベル「ジオラマブックス」も主催。TJNYメンバーが執筆陣として多数参加するマンガ誌「ユースカ」の最新第5号が、5月に発売されたばかり。取り扱い書店の情報など詳細は、レーベルの公式Twitterアカウントでチェック!
» トーベヤンソン・ニューヨーク公式サイト
» ジオラマブックス@dioramabooks|Twitter